北風さんと太陽さんが 言い合いをしていました。 北風さんが 言いました。 わたしの力はとてもすごいんだ。何でも 吹き飛ばしてしまうんだ。 太陽さんも 言い返しました。 わたしの力だって あなたには 負けないぞ。 そこへ 中年の男と女の二人づれが 小高い丘の道にやってきました。 北風さんと太陽さんは にらみ合ったまま いいました。 「ちょうど よいところへ 力試しのものが やってきた。」 「あの二人の着ているものを どちらが早く脱がせられるか 勝負しよう。」まずは 北風さんです。 北風さんは ホッペを 大きく大きく ふくらませました。 そして とがった口から 風がものすごい勢いで吹き出てきました。 びゅうびゅうと 風が 二人の着ているものを 吹き飛ばしてしまいそうです。 男も女も 寒い寒いと言いながら からだを寄せ合いました。 しかも 飛ばされまいと 着ている服をしっかりと 押さえてしまいました。 北風さんは これでもか これでもかと せいいっぱい 風を吹きまくりました。 しかし ついには 二人の服を脱がせることは できませんでした。
次は 太陽さんの番です。 太陽さんは いきなり まっかな顔をして ぎらぎらと 燃え上がりました。 いっぺんに 真夏になってしまいました。 暑いあついと 男も女も 汗ばんできました。 女の方は 日焼けになってしまいそうと ぼやきながら 袖のボタンまでしっかり留めてしまいました。 顔も黒くなってはと スカ―フでほっかぶりまでしてしまいました。 男は 汗を流しながら つぶやきました。 こんな強い直射日光にあたって 皮膚ガンになっちゃたまらん。 男は まくり上げていた シャツの袖を引き降ろし 開いていた胸元も しっかり合わせてしまいました。
こうして 太陽さんも 二人の服を脱がせることが できませんでした。 北風さんと太陽さんが 顔を見合わせて ため息をつきました。
そこへ ふわぁぁと 白い雲さんが あらわれました。 「わたしなら こうしてみるかなぁ。」 「そんなに がんばらないでいいから 二人をあたたかく包むことだけ考えます。」 「そんなに 力まないで 二人のほほをそよ風でやさしく撫でてあげましょう。」
北風さんと太陽さんは ふむふむと うなずきました。
初めのうちは 小春日和のぽかぽか陽気でした。 男と女は 素晴らしいお天気になったねと ほほ笑み合いました。 そのうち 二人とも 少しづつ汗ばんできました。 そこへ すがすがしい風が 吹いてきたものですから 二人は おもわず 『わ― とてもいい風だ』と声をあげました。 そして すっかりくつろいだのか 二人とも上着を脱ぎはじめました。 心地よい日ざしのもと さわやかな風に吹かれて 二人は手をつないで 楽しそうに 去っていきました。
北風さんと太陽さんは また顔を見合わせて うなずきました。 なんとなく うれしくなりました。 そして 白い雲さんに ありがとうを 言いたくなりました。
白い雲さんは すずしい顔で 青い空に ぽっかり浮かんでいました。